会長コラム2012年10月

 「ADL障害へのアプローチ」



 10月6日(公社)日本理学療法士協会全国学術研修大会でADLのセミナーを担当さ せて頂いた。疾患別セミナー「脳卒中者への理学療法−ADL障害へのアプローチ−」 というお題であった。最初に普段からFacebookやメーリングリストでやりとりさせて 頂いている脳卒中を経験された当事者の方の訴えを紹介させて頂いた。「ADLの自 立の為に非麻痺側上肢でのADL練習と歩行練習のみを行う回復期リハビリテーショ ン病棟等が増えているが私たちは麻痺手にアプローチして欲しい」というものだ。

 A DLというと自立しているかどうかに焦点があてられ、麻痺側上肢が参加しているか どうか、そして楽に効率よく行えているかどうかといった「自立の中身」「質」を問 われないことが多い。特に回復期リハビリテーション病棟では「日常生活機能評価」 の点数やその変化が成果として診療報酬に反映されている。この評価は日常生活機能 評価という名称ではあるが元来は看護必要度の評価なので「いかに手がかからない症 例か?」を問う尺度であり、どのように行ったかはほとんど問われることがない。も ちろん麻痺手を用いて自立できないより、片手でも自立できた方が良いに決まってい るが、同じ自立であれば、楽に効率よく、そして可能であれば麻痺側上肢も参加して 出来た方が良い。

 さらに麻痺手から情報が入り続けることで皮質のマッピングが変わ ることを証明したNudo博士の1996年の論文以降、神経リハビリテーションアプローチ が常識となり、ADLに少しでも麻痺側上肢が参加する事は脳の可塑性といった意味 でも重要視されているのである。ところが施設によって理学療法士は歩行、作業療法 士はADLや高次脳と分けられている所もあり、その上、作業療法士が上肢治療をハ ンドリングで行うと「理学療法士もどきだ」と言われる理学療法士の方もいるよう だ。

 療法士同士、専門性を持ちながらそれでいて線で区切ってしまわない、縫い合わせる ような協業が重要である。その為には理学療法士も道具操作の知覚的側面を知らない といけないし、利き手交換に重要な要素を知っておかなければならない。そしてもち ろん作業療法士も歩行についての知識を持っておくべきだと私は考える。そして嚥下 障害に対するアプローチを考えるためには嚥下機能に重要な姿勢コントロールの事を 言語聴覚士は知っておくべきだし、喉頭蓋や舌骨の動きを理学療法士・作業療法士も 知っておく・・その上でお互いの役割分担の中で専門性を発揮するというのが理想的 であろう。もちろん一人職場であれば全てやらなければならない局面があるかもしれ ない。

 そして脳の事を考えると網様体脊髄路系の姿勢制御(いわゆる構え)は1次運 動野から運動指令が下行する前に、補足運動野・前運動野の運動プログラミングから 皮質網様体路を下って運動指令の50〜300msec前に、吻側橋網様体脊髄路を経由し両 側性にコントロールされると言われている。運動プログラムが必要という事はすなわ ち何か物に手を伸ばそうと思うことで姿勢が準備されるわけなので、理学療法士は道 具を使うなと言われたら麻痺側上肢の治療をできない。また、系列動作の中で、例え ば冷蔵庫の中から物を取り出す応用歩行の事を考えたら「ドアを開けながら中の物に 手を伸ばす為の要素」として歩行の一歩目からの軌道を考えなければならないので作 業療法士の方も歩行について知っておく事が望ましい。

 全国研修会の講演の中ではADL改善のための介入について、縫い合わせるように協業 することの必要性や、道具操作や食事、着替え動作の時に必要となる姿勢制御、そし て洋服や食器の知覚的操作について実演も交えて講演した。

 ボバース概念に基づく神 経リハビリテーションアプローチでは療法士の協業について何十年も前から見本とな る取り組みを行ってきた。毎年合計2万人前後の療法士が誕生する時代が来た。専門 性と称して線が引かれることで脳卒中リハビリテーションの隙間が出来てしまい、対 象者の方が麻痺手の治療を受けられない、などという事が生じない卒後教育が望まれ る。

日本ボバース研究会 会長   伊藤 克浩
 

平成24年10月11日

 
 


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