会長コラム2012年2月

「網様体脊髄路系の機能と構造」



 2月の11日に帝京平成大学で開催された関東甲信越神ブロック成人合同研修会で、札幌医科大松山清治先生に「網様体脊髄路系−その機能と構造−」という テーマでの特別講演でご講演頂けたので報告しておきます。松山先生は高草木薫先生と共に森茂美先生の教え子で除脳ネコを筆頭とした橋・脳幹・網様体・脊髄研究 の世界的大家であり、我々の神経生理学理論を支えて下さる研究者でもあります。また、先生は大学で作業療法士の指導もされておられるので、臨床についても 詳しい先生だとお聞きしています。この日は網様体−網様体路の話など、まだ本や論文にはあまり書かれていない話も聞くことが 出来てとても勉強になりました。(以下は先生のお話を聞いた私の解釈を含んでいます。)

 先生のお話では網様体はその名の通り、網の目のように神経回路が張り巡らされていて、「網様体−網様体路」により脊髄投射は両側性であるとの事。 また脊髄レベルに降りても「交連ニューロン」があり両側に分枝するとの事でした。 そして「皮質−網様体投射」について、橋核へは早く強い投射があり、さらに特に4野から密集して投射している。また、6野からの投射はダイレクトに網様体に入り、 そしてその投射は両側にされているというお話でした。

 さらに大槻利夫成人上級インストラクターから臨床での片麻痺者の症状について説明して欲しいという要望 にもお答えして頂けました。大槻先生の質問は事前に松山先生にメールで送られた「非麻痺側を随意的に使う際、麻痺側の橋・網様体脊髄路がpAPA'(予期的姿勢調整)に 働くはずですが脳卒中治療の臨床では働きにくく感じますが?(麻痺していない方の手足を使う前に起こるべき麻痺側の体幹中枢部の準備は吻側網様体脊髄路が同側支配が 多いのでもっと機能するはずなのに片麻痺の人の麻痺側体幹は働きにくのは何故?)」というも ので、松山先生は「橋がPreparatory APA's(pAPA's/予期的な先行随伴性姿勢調節)に,延髄がAccompanying APA's (aAPA's/随伴的な先行随伴性姿勢調節)、そして6野 からの入力はpAPA'sに、4野からの入力はaAPA'sに関わっていると思われます。」とお話された上で「橋網様体に入力する上位信号(pAPA's信号含む)には、皮質網様体投 射を介するものの他に、基底核・小脳などの上位中枢を介する入力も考慮する必要があります。 小脳室頂核の出力繊維は正中交差し、反対側の橋・延髄網様体に投射します。このため麻痺側の橋・網様体は非麻痺側(損傷脳側)の室頂核から入力を受けることになります。 」と回答されました。

 またもう一つの質問「麻痺側の肩甲帯・股関節周囲の低緊張は対側支配の延髄網様体脊髄路の機能低下によるものですか?」という質問には 「ネコの巨大細胞性網様核(NRGc)由来の網様体脊髄路軸索の中で対側支配のものは40%程度です。 網様体脊髄路の多くは脊髄全長を支配しており、肩甲帯、股関節の近位筋に加えて体幹筋の筋緊張調節にも関与します。 不安定な二足肢位を取るヒトでは、四足動物に比べて大脳皮質の姿勢調節への関与が大きいと推測されます。このため筋 緊張低下の要因として、近位筋支配の皮質脊髄路の機能低下も配慮する必要があります。」と説明されました。

 私の解釈ではすなわち6野の運動のプログラミングが両側性に橋・網様体に伝えられる事で予期的にフィードフォワードとして姿勢の準備が作られるが、小脳室頂核からの 出力にも影響を受ける。この出力は正中交差するので健常脳からの下降経路が傷害されていなくても非麻痺側上下肢を動かす際に予期的姿勢調整が 機能しにくい場合が生じる。また麻痺側上下肢が動き始めたら四肢(肩甲帯含む) がフィードバック情報にも基づいて姿勢制御が行われ続ける、そしてそこには霊長類の場合、皮質脊髄路も関与するので低緊張が生じる場合があるという事ですね。
 治療としては「対象者さん自身が能動的に手を伸ばそうと思うことで6野から姿勢の準備が行われ、動き始めたらしっかりとしたフィードバック情報を受けながら、 でも、中枢や下肢の事はあまり意識に登らずに課題が達成されるような誘導」が重要となるのではないでしょうか?まさに我々のハンドリングの原則と一致しますね。   

 講演終了後には会員が症例発表を行い、松山先生にもコメントして頂きました。お一方は橋出血の症例で両足立位を取ると麻痺側股関節が不安定(低緊張)で支持できない症例でした。 肩甲帯周囲にも低緊張が見られていましたが、エアロバイクに乗ると比較的安定してペダルを漕ぎ続けることができているという症例でした。松山先生のコメントは 「肩甲帯、股関節の影響は皮質脊髄路の影響が大きいのではないでしょうか?エアロバイクではCPG(Central Pattern Generator)が良く機能しているように見えましたが、 立位等で随意的な要素が増えると問題が増強する症状と、MRI画像から、橋出血ではあるけれども背外側系の障害が考えられます。」と解説されました。  この様な考察を研究者の方にして頂けるのは素晴らしい事ですね。どうやら猫やウサギと違って二足動物のヒト科の動物は中枢部(肩甲帯や股関節)の制御にも皮質 脊髄路が関わっているという考えを持たれているようでした。

 我々の概念の特長でもある皮質下・脊髄を考えるといった橋・延髄・脊髄機能の捉え方について、高草木先生に継いで新しい味方を得た感触を得ました。  

日本ボバース研究会 会長   伊藤 克浩
 

平成24年2月27日

 
 


当研究会へのお問い合わせ、ご質問は、下記の連絡先までお寄せ下さい。
日本ボバース研究会事務局:〒536-0023 大阪府大阪市城東区東中浜2丁目1番23号 栄泉第一ビル4階
TEL:06-6962-6722  FAX:06-6969-9667   Eメール:bobaken@nifty.com


制作:日本ボバース研究会インターネット事業部