会長コラム2011年10月

「義肢装具学会」



 10月23日に義肢装具学会でパネリストを努めさせて頂いたのでその概略をお伝えす る。パネルディスカッションのテーマは「脳卒中患者の治療用装具はありえるか」。司会は千里リハビリテーション病院の吉尾先生でパネラーは齋藤栄一(藤田保健 衛生大学)医師、狩野綾子(蒲L薗製作所)義肢装具士、そして私だった。私の話の 概略は下記(抄録からの抜粋)を参照されたい。
 ディスカッション中に会場のリハ専門医の方から「ボ バース概念を実践しているセラピストは装具を使いたがらない傾向がありますが、講 習会で伊藤先生が本日お話しされたような装具の有用性は教えられていますか?」と質 問を受けた。
 私は「現代ボバースにおいて装具を敵視するような考えは世界的に存在 しないし、少なくとも当院で開催している講習会では装具は適応で考えるべきもので あり、必要な人には積極的に用いるべきだと教えています。ただし、かつて私が就職 した27年前頃は装具を製作したらあとは平行棒内で歩行自主訓練をする・・という 傾向がありました。ボバースの指導者は本当にその装具が現在の下肢の状態に適合し ているのかどうか、毎回リハビリテーション時には装具を外して足の状態を見るよう に、そして潜在能力があると評価した症例では装具を外した状態でもきちんと足部治 療を行うように・・と教えてきました。」とお答えした。

-------- 義肢装具学会抄録より抜粋(伊藤克浩パネルディスカッション) --------
 脳卒中患者(中枢神経疾患)における神経リハビリテーションの重要性が試摘される 昨今、BMI(Brain-Machine-Interface)やロボットスーツHALL等、脳科学と補・装具 等のシンクロ、そして発展ぶりには目を見張るものがある。そういった皮質の機能に 着眼した神経リハビリテーションがクローズアップされる一方で、急性期から回復期 への移行時期の早期化と病態変化(脳梗塞・糖尿病等増加による低緊張症例の増加) により、端坐位、そして立位保持が困難な症例が回復期リハビリテーション病棟に増 加してきている実情がある。
 そこで姿勢制御等の皮質下機能に着目したリハビリテーションの重要性について述べ ると共に、その中で下肢装具が失われた機能の機能代行としての役割に留まらず、運 動学習や脳の可塑性にとってどういう役割を果たしうるかについて考えてみたい。 治療用装具という言葉の意味が従来の保険用語としての「治療用(治療材料)」とい う事でないのであれば、それは「下肢装具が脳卒中者の麻痺側の機能回復にどのよう な影響を与えるか」という事になる。麻痺側の機能回復の理由として最初に挙げられ るのは病変部位の変化、代表的なところでは血腫の吸収、脳浮腫の軽減等が代表的で ある。しかしながら昨今では神経リハビリテーションにおいて損傷脳の神経回路網の 再編成や運動の再学習、そして身体図式の変化等、脳の可塑性適合にも焦点が当て始 められている。姿勢制御メカニズムにおける橋・脳幹網様体・小脳の役割は上・下肢 活動や歩行の際の体幹・骨盤周囲の先行随伴性姿勢調整と、重力に抗する股関節を中 心とした下肢支持活動にあるといえる。それらの機能がタイミング良く実現されるた めには脳幹網様体・前庭システムの活性化が重要となり、入力情報として支持面から の床反力情報が速やかに中枢に伝えられる必要があるが、主に急性期・回復期初期の 症例では、足部や膝の不安定性がまだ強く残存している場合も多く、下肢のカイネ ティック・チェインが機能しないことにより支持面からの情報が中枢に伝わらない場 合も多く見られる。セラピストによる立位バランス練習等では徒手介入による情報入 力も重要ではあるが、病棟でのADL練習場面等では下肢装具によって関節の自由度 を制御することにより、床反力情報を中枢に伝えることが姿勢制御機構を活性化する 場合もある。
 また、歩行機能回復練習において、脊髄セントラル・パターン・ジェネレーター (Central pattern generator/以下CPG)に働きかける歩行リハビリテーションを行 う際には、筋の長さ情報がこのニューロンネットワークのスウィッチング機能を継続 させるため、ゲイトソリューション・デザイン(以下GSD)の様な装具を用いて歩行 の相が継続的に正しく実現されることや、末梢(足部・足趾)の状態に注意を向けず にリズミカルに歩行練習を行うことが重要であり、下肢装具が重要な役割を果たす場 合がある。
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日本ボバース研究会 会長   伊藤 克浩
 

平成23年10月31日

 
 


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