日本ボバース研究会 会長コラム


会長コラム9月

「提示することの難しさ」

 

日本ボバース研究会 会長   伊藤 克浩
 

平成21年9月30日

 最近、冊子や研修会で神経生理学的アプローチの批判が多いのが気になる。

 まずボバースコンセプトに基づく治療が未だ「神経生理学的アプローチ」と表現されることにも違和感を感じるが、それはさておき、 「ICFの考え方を無視している」「痙性が増大しないように脳卒中の方や子どもの活動性を押さえ込む」「装具を用いる事を敗北だと思っている」 「肩や股関節の解剖を全く知らない」等の指摘は現在のボバースコンセプトには該当しない。

 そして日本から出席された方が「スリーステップカンファランスで神経生理学的アプローチは過去のものとされた」と書かれたこともあるが、ボバースコンセプトに関しては実際と違う。
 スリーステップカンファランスにはIBITA(国際ボバース講習会講師協会)のメンバーが20数名招待されていて、IBITAAGM(定期総会)での報告会に私も参加した。

 その報告会では「ツーステップ会議後、現在 も明らかな活動をしている団体はボバースグループだけであるという認識を頂いたの ち、ICFを講習会の中で講義すること、EBMへの取り組みをすること・・ という宿題を頂いた」という事が報告された。
 IBITAでは現在も世界的規模でその宿題に取り組んでいるところである。ICFに関しては基礎講習会の中で必ずプログラムに組み込む国際ルール になっているし、EBMに関 してはガイドライン等で引用されているスタディに関してNDTというグループの基 準が曖昧なので、カナダのジュリー・グラハム、リビー・スワン、オーストラリアのキム・ ブロックら、PHD・Dr・大学関係者のIBITA検証委員会が中心になって現在基準 を明確にしたリサーチプログラムを試行中である。

 さて、今年、日本のリハビリテーション医学会においても一定量以上のリハサービスを提供できる 環境では、量よりも質を問われる時代になってきているとのご指摘があった。私 は日本リハビリテーション病院・施設協会において長年、エビデンスに関係する委員 会で実態調査や文献調査をさせて頂いたが、脳卒中に関するリサーチのうちRC Tレベルではボバースのみならず、運動療法そのもののエビデンスが非常に乏しいと いうのが実状であった。特に日本で行われたスタディで「量を問うもの」はあってもその「中身を問うもの」はほとんどみあたらなかった。

 私たちは同じ運動療法を行うものとして、一つのアプローチを名指しで批判しあっている場合ではなく、運動療法そのものの有効性を訴えてい かなければ、普遍性や経済効果がまず優先される国の施策や民間保険会社にコントロールされ、北米のように療法士がトレッドミルやロボットアームに数字を打ち込むだけの職種になってしまうこ とが危惧されるのではないだろうか。

 次に「脳性麻痺治療ガイドライン」についても話が出るので触れておくと、N DTはテクニックとしてボトキシン治療等と同列の扱いの中で「C1/用いても良い が科学的根拠は無い」とされている。ところがボバースコンセプトの軸でもある 「両親の療育への参加」や、順天堂医院で新保シニアインストラクターらが先進的に 取り組んでいる「NICUでの早期治療」等はボバースコンセプトとはうたわれていないが、高いエビデンスレベルで推奨されている。 何をもってNDTとするか・・難しいところである。

 また、アウトカムを出していないという批判もあるが今年の東京での日本 理学療法士学術集会 神経系理学療法部会の口述発表や作業療法士学術大会において、多くの研究会会員が 発表させて頂いたことは周知の事実であるが、介入に関して「ボバースコンセプトに基づいた運動療法を行った結果」とはしていないのである。
 提示することの難しさを感じる昨今であるが、現在、日本ボバース研究会は来年の法人化と学会化を目指して準備中である。 検証委員会等の設置を検討し研究会からのリサーチや研究発表を提示していきたいと考えている。  


注:ここでいう「運動療法」とは直接的介入を指しています。また、 トレッドミルやロボットアームを用いることはクリニカルリーズニングに基づいて、直接的介入と併用されることで非常に有効な手段であると認識しています。

Graham JV, Eustace C, Brock K, Swain E, Irwin-Carruthers S
The Bobath concept in contemporary clinical practice
Top Stroke Rehabil. 2009 Jan-Feb;16(1):57-68


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